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アマチュア落語家の小竜治です。
今回は私が2席目に覚えたネタ『あくび指南』の台本を公開してみます。
今回も参考にしていただいてもいいですし、あとは私の個人的な備忘録も兼ねてます。
『あくび指南』のポイント
『あくび指南』のポイントはこちら。
- 「あくびを教わってみたい」という八五郎のモチベーション
- 「あくびを習う」ことのバカバカしさ
- あくびの稽古をしてる二人と傍から見てる友達のテンションの差
落語は基本的に八五郎がボケ、他の登場人物がツッコミになることが多いですが、『あくび指南』は先生がボケっぽいけど、はっつぁんは100%ツッコミではない。
他のネタとちょっと違った構成のため、やりにくさもあるかもしれません。
参考にした音源
台本作成時に参考にした音源は、柳家小三治師匠、柳家喜多八師匠、春風亭一之輔師匠です。
とくに小三治師匠の『あくび指南』は面白い!
ただちょっと、まわりくどい言い方をしてるところもあるので、喜多八師匠の音源を聞いて簡単な言い回しを探しました。
実際、私の台本はベースは小三治師匠ですが、ところどころ喜多八師匠や一之輔師匠のも参考にして作ってます。
『あくび指南』の台本
ここから先は、私が『あくび指南』にチャレンジしたときの台本を公開します。
台本作成の参考にしていただいて構いません。
想定時間
この台本の想定時間は15分です。
正直、難易度の高いネタになるかと思います。
少なくとも、私が二席目に選ぶネタではなかった…
八五郎と友達が稽古屋に行く
八五郎:ちょっと付き合ってもらいてえんだけどね
友達:え?
八五郎:ちょっと付き合って
友達:どこへ?
八五郎:あのね、稽古事を始めようと思ってね
友達:稽古事?何のだよ
八五郎:あくび
友達:え?
八五郎:あくび
友達:あくびってあの退屈なときに出るあくび?
八五郎:そう、そのあくび
友達:なに稽古って?あくびの?そんなもん、銭払って教わるもんじゃねえだろ?
八五郎:そこ!そこなんだよ!
いいか、わざわざ銭を取って教えようってんだからね、ただのあくびじゃねえと思うんだよ。
きっとね、乙なあくびだよ。
一人じゃ心細いから、来るだけでいいから、な、頼むよ
友達:わかったよ、付き合ってやるよ。ただし、稽古はしねえからな
八五郎:うん、来るだけでいいから。
おお、ここだよここ
(上手)
ごめんください!こんちは!
あ、どうも。
あの~、表の看板見て入ってきたんですけども、こちら、あくびを教えてくれるところですか?
先生:
はいはい、あくびをお教えするのは手前どもでございますよ
八五郎:ああそうすか。あっしはお稽古を願いたいと思って、それで入ってきたんですけども
先生:ああ、そうですか、どうぞお入りください
(奥の友達に向かって)
お連れさんの方もどうぞこちらに…どうぞこちらへ…
そちらの方、お入りになってください…
(八五郎に向かって)
あちらの方、お連れさんでしょ?
八五郎:え?
先生:あの方お連れさんでしょ?
八五郎:誰ですか?
(ななめ後ろの友達を見て)
あ、この野郎ですか?この野郎は別にお連れさんてほどのものじゃありませんよ
先生:なんですか?
八五郎:一緒に来たんです
先生:じゃあお連れさんじゃありませんか
八五郎:あ、お連れさんですか。
(ななめ後ろの友達を見て)
おい、入れよお前、お連れさんだってえじゃねえか。お連れさんなんだから、こっち入れと
友達:よせよお前、お連れさんだなんて…つまらねえ濡れ衣着せんな
八五郎:なんだ濡れ衣ってえのは。だって先生がそう言ってっからだよ。
いいからこっち入れよ
(先生に)
あの野郎、強情な野郎なんですよ。いいんです、お稽古するのはあっしだけで
(ななめ後ろの友達に)
それじゃあお前、そこにかけて待ってろ。
(先生に)
あそこにかけて待たせますから、お稽古はあっしだけで
あくびの稽古とは?
先生:ああ、そうですか。これはよくおいでくださいました。
ご町内の方ですか?ああそうですか。
それではさっそくお稽古に取りかかることにしますが、ええと…あなたはお下地はおありですか?
八五郎:はい?
先生:お下地はおありですか?
八五郎:ええ、そうですね…何しろあれがねえってえとね、寿司とったって、刺身食ったって生臭くっていけませんから
先生:いや、下地ってね、お醤油じゃありませんよ。
つまりですね、今までどちらかで、あくびのお稽古をなすったことありますか?
八五郎:へ…?これどっか他でやってるところあるんですか!?これ?
いや知りませんよ。あっしはね初めて見てね、ああ珍しいなってね。
あっしは珍しいものがあるってえと、ついついこう鼻の頭から入ってっちゃう癖があるもんですからね、入ってきちゃったんですよ。
だから聞いた事もねえんですよ。初めてです、初めてです
先生:ああ、そうですか。じゃつまり、初心者ということになりますね
八五郎:初心者?いやそんな偉かない…
先生:いや別に偉かありませんよ。ああ、そうですか。
ではあなたはいったい、どういうあくびのお稽古をなさりたい?
八五郎:どういう?え?あの、どういうですか?
あの~、どういうってあの、あれじゃねえんですか?
あくびって…あれ?
あの~、退屈なときに「あ~あ」って出る、あのあくびじゃねえんですか?
こちらのあくびってえのは
先生:あれもあくびでないとは申し上げませんがね、退屈なときに出て来るあくびでございますね。
あれはまあ、あくびには違いありませんが、ああいうのはもうほんの駄あくびで…
八五郎:駄あくび!?するとなんですか、世の中に駄あくびじゃねえあくびってのがあるんですか?
先生:ええ、手前どもでお教えするあくびは、皆、身のあるあくびばかりでございます
八五郎:ああ、そうですか。
あくびに身のあるかどうかそこらへんはよくわかりませんがね、ひとつよろしくお願いします
先生:ああ、そうですか。それではまあ初心の方ですから、手始めに四季のあくびというのをご伝授いたしましょうか
あくびの稽古開始
先生:四季のあくびと申しますのは、春夏秋冬でございます。
初心の方にはやはり、夏のあくびなどがよろしゅうございますかな。
いっぺんやってごらんにみせますのでね、よく見て覚えてくださいましよ
この夏のあくびと申しますのは、船遊びでございます。
隅田川に船をもやいまして、船頭と差し向かい、水面を眺めているうちに、ついつい退屈をしてあくびになる、
まあそういったところですかね。
え~、この白扇をキセルに見立てますんで、よく見て覚えてくださいましよ。よろしいですか?
(体を揺らす)
おわかりですか?
八五郎:へ?
先生:つまりもやった船ですからね、体のほうは揺れるともなく揺れているという、この辺をよくご覧くださいましよ。
セリフでございます
「おい、船頭さん、船を上手へやっておくれ
堀から上がって一杯やって
夜は仲へでも行って、新造でも買って遊ぼうか
船もいいが一日乗ってると、退屈で、退屈で…あ~あ、ならねえ」
八五郎:難しいですね!こりゃ難しいよこりゃ
(ななめ後ろの友達を見て)
見たかよおい、難しいだろ?
奥が深いってのはこれだよ、なかなかできるもんじゃねえよ。こりゃ驚いた
(先生に向かって)
あの、先生、いっぺんじゃ覚えられませんのでね、すいません、もういっぺん
先生:ああそうですか。
たいして長いもんでもありませんので、なるべく早く覚えてくださいましよ。よろしいですか?
「おい、船頭さん、船を上手へやっておくれ
堀から上がって一杯やって
夜は仲へでも行って、新造でも買って遊ぼうか
船もいいが一日乗ってると、退屈で、退屈で…あ~あ~ならねえ」
八五郎:いや~、難しいや。こんな難しいと思わなかったんですよ。
あくびの稽古ってえからね、みんな一列になっていっぺんにあ~あってそれでいいと思ってたんですよ。
こんな難しいと思いませんでしたね…
どうですかね、あっしにむかねえようでしたら今のうちに引き下がった方がいいよな気が…
先生:まあまあ、これ貸して差し上げますから、やってごらんなさいまし。
悪いところは直して差し上げますから
八五郎:あ、そうですか?驚いたね、こんな難しいと思わなかったんすよね。
第一あっしはね、あくびの稽古にセリフがあると思いませんでしたからね
これをキセルに見立ててね、まずはかまえるんですか?かまえるんですね。
こんなもんでいいですか?え?もうちょっと下?こんなもんでいいですか?
あ、そうすか…え?ああ、体、ああそうか、体ね
(体を大きく揺らす)
先生:別に時化くらってるわけじゃないんですから、もやった船ですから、体のほうは、揺れるともなく揺れるというような具合に…
八五郎:揺れるともなく揺れる?
そういうね、難しいこと言われちゃ困るんですよ。
あっしは江戸っ子ですからね、職人ですからあっしはね、揺れるなら揺れる!揺れねえなら揺れねえ!
どっちかにしてもらいてえなあ、あっしはな。
揺れるともなく揺れるって弱っちゃったなあ…どうでしょうね、こんなもんで。
初日ですからひとつこれで勘弁してもらってね…
いよいよセリフですね…何て言いましたかね?
先生:おい、船頭さん
八五郎:ああそうっすか。おう!船頭つくらぁ!
先生:品がないですね、あなた。もっと鷹揚に
八五郎:あ、そうすか、何ですか?
おい、船頭さん、船を上手へやってくんねえな
先生:くんねえなじゃありません、おくれ
八五郎:ああそうすか。
船を上手へやっておくれ 堀からおっこって
先生:おっこってどうするんですか。上がってください。
堀から上がって一杯やって
八五郎:ああ、なるほどね、わかりました。
おい、船頭さん、船を上手へやっておくれ。
堀から上がっていっぱいやって、夜は仲へつ~と行くってえと馴染みの女が待っていてね
(女の声で)
あらちょいとお前さん、どうしたの?この頃まるっきり来ないけど、脇でもって浮気でもしてんじゃないの?
(八五郎)
何言ってやがんでえ、お前がいて脇でもって浮気なんかできるかよ
(女の声で)
まあこの人は口がうまいよ。それでずいぶん女を騙すんだろ、にくいねほんとに、こっちおいで
(八五郎)
なんて言われてね、俺のひざきゅってつねって、俺が痛って
先生:何をしてるんですか?
誰がそんなこと教えました?
八五郎:どうもね、一人でになっちゃう
先生:一人でになっちゃうったっていけません。もう一度やってごらんなさい
八五郎:おかしいな、どうもな。
おい、船頭さん、船を上手へやっておくれ。
堀から上がっていっぱいやって、夜は仲へつ~と行くってえと馴染みの女が待っていてね
(女の声で)
あらちょいとお前さん、どうしたの?この頃まるっきり来ないけど…
先生:またやってますな…どうしてそういうことになるでしょうな
八五郎:ええ、あっしも言うつもりはねえんですけどね、一人でにこうなっちゃうんで。
どこが悪いか見てておくんねえ。悔しいやどうもな
おい、船頭さん、船を上手へやっておくれ。
堀から上がっていっぱいやって、夜は仲へつ~…
先生:あ、そのつ~というのがいけません。つ~と言うから調子づいてそういうことになる。
つ~と言わずに夜は仲へ行って新造でも買って遊ぼうかと、素直に言っていただきたい。
よろしゅうございますか、余計なことを言わない
八五郎:ああ、なるほどね、もういっぺんやってみます。
おい、船頭さん、船を上手へやっておくれ。
堀から上がって一杯やって、夜は仲へつ…と言わずに行って、新造でも買って遊ぼうか。
船もいいが一日乗ってると、退屈で、退屈だと、ね。
退屈でしゃあねえやと、ね。
退屈でしょうがねえってことについちゃ、そろそろあくびでもしようじゃねえか、なんてんで、は~あ
先生:ため息ついちゃいけませんよ、あなた。
あくびをなさい、あくびを
八五郎:いや、それがね、なかなか出ないんですよ
先生:では、コツをお教えしましょう。
船もいいがあたりから鼻にかけてしゃべりますと、自然とあくびが出ます
八五郎:船もあたりを、鼻にかかるようにね…
おい、船頭さん、船を上手へやっておくれ。
堀から上がって一杯やって、夜は仲へでも行って、新造でも買って遊ぼうか。
(鼻にかけて)
ふへもいいが…ひちにちのってると、てえくつで…てえくつで…はっくしょん!
先生:くしゃみはいけません!
サゲ
友達:(半身でちら見しながら)バカだねあいつら。よくそんなくだらねえことができるね。
教えるほうも教えるほうならよ、教わるほうも教わるほうだよ。
何が退屈で退屈でだよ。てめえたちはいいよ、それをこっちでぼんやり待たされる俺の身になれえ。
俺のほうがよっぽど退屈で…退屈で…あ~あならねえ
先生:あ、お連れさんのほうがご器用だ
【さいごに】『あくび指南』の感想
私は落語教室の二席目に『あくび指南』を選びましたが、正直、二席目にチャレンジするようなネタではなかったです。
少なくとも、当時の私ができるようなレベルではなかった。
なので、発表会以来、一度もやってません…
でも今回、台本を見直してみたら、やっぱり面白いんですよね。
またやってみたくなりました。
動画で『あくび指南』の所作を確認
一之輔師匠のYoutubeチャンネルで観ることができます。
▶春風亭一之輔 10日間連続落語生配信 第2幕 第一夜『あくび指南』|春風亭一之輔チャンネル
一之輔師匠の『あくび指南』は喜多八師匠の型ですね。
喜多八師匠の型は、あくびを習いに行きたいと思うことになったきっかけが秀逸です。
一之輔師匠の『あくび指南』も面白くて好きです。
小三治師匠の『あくび指南』を聞く方法
私が一番好きな小三治師匠の『あくび指南』ですが、小三治師匠の音源や動画はサブスクには存在しませんし、公式Youtubeチャンネルもありません…
かといってYoutubeの違法アップロードを紹介するわけにもいきませんので、CDをご紹介しておきます。
小三治師匠の『あくび指南』は、なんといっても間が面白くて好きです。